肛門腺絞り

犬の肛門腺絞り、いつどのように?-獣医師が教える正しいケアの仕方

1.肛門腺とは

(1)肛門腺の構造と位置

肛門腺とは何でしょうか?肛門腺は犬の肛門の両側、4時と8時の位置に存在する小さな袋状の器官です。これらは約1.0cm~2.0cmの大きさで、中には臭い分泌物が溜まっています。その分泌物は、犬が排便する際やストレスを感じると排出されます。

以下に、肛門腺の位置を図示します。

後方から見た犬の肛門の位置

 12時 ↑

10時←  →2時

8時 ←  → 4時(←ここに肛門腺があります)

    ↓ 6時

このように、肛門腺は排便時に自然と絞られる位置にありますが、異常が生じて分泌物が溜まると絞りが必要となります。これら肛門腺の知識は、正しく肛門腺絞りを行うために重要です。次章では、その必要性について詳しく説明していきます。

(2)肛門腺の役割と働き

肛門腺は、犬が排便やストレス時に分泌物を出す器官で、その分泌物には、マーキングやコミュニケーションの役割があります。また、防御の一環として臭いを放つことで敵を威嚇する働きも持っています。

具体的には、肛門腺から分泌される液体は独特の臭いを持ち、犬同士が互いに sniff(嗅ぐ)行為をする際に重要な役割を果たします。これにより、他の犬の存在を知らせたり、自己主張したりすることが可能になります。

しかし、この分泌物が過剰に溜まると肛門腺炎を発症したり、最悪の場合肛門腺が破裂することもあります。適度なケアが必要となりますが、その前提として知っておくべきなのが、犬の肛門腺の役割と働きです。この理解があれば、適切なケアを行う意識も生まれやすくなります。

2.肛門腺絞りの必要性

(1)絞りの目安と頻度

犬の肛門腺絞りの目安と頻度は、犬の体調や生活環境に大きく影響されます。一般的に、肛門腺絞りの必要性を示す主なサインとしては、地面に尻をこすりつける行動(スクーティング)、尾の下あたりを舐める、便通に異変があるなどがあります。

また、肛門腺絞りを行う頻度については、以下のように犬の体調や症状により異なります。

健康な犬約2~4ヶ月毎
肛門腺に問題を抱える犬獣医師の指示に従う

健康な犬でも、一定期間ごとに肛門腺絞りを行うことで肛門腺の問題を予防することが可能です。しかし、肛門腺に問題を抱える犬は獣医師の指示に従い、適切なタイミングで絞りを行いましょう。これらの目安はあくまで一例であり、個々の犬の状態により異なるため、具体的な頻度やタイミングは獣医師と相談して決めることが重要です。

(2)絞らないと起こる問題

犬の肛門腺は、特定の状態が続くとトラブルを引き起こすことがあります。肛門腺の絞りを怠ると、腺液が溜まり続け、肛門腺が圧迫されることで不快感を引き起こします。これは犬にとって、明らかなストレス源となり、尾を引きずる、床を這う、肛門部を舐めるなどの行動が見られるようになります。

さらに放置すると、肛門腺炎や肛門腺破裂という重篤な病気につながるリスクが高まります。これらは疼痛や細菌の感染により体調を大きく崩してしまう可能性があるため、早期に対処することが大切です。

絞らないと起こる問題具体的な症状
肛門腺が圧迫される尾を引きずる、床を這う、肛門部を舐める等
肛門腺炎・肛門腺破裂疼痛、細菌感染による体調不良

こういった問題を避けるために、肛門腺の絞りは定期的に行い、適切なケアを心掛けることが大切です。

(3)肛門腺炎や肛門腺破裂の症状

犬の肛門腺に異常が起こると、肛門腺炎や最悪の場合、肛門腺破裂という深刻な問題を引き起こします。これらの症状には、以下のような特徴的なサインがあります。

  1. 肛門腺炎:肛門周辺の赤み、腫れ、痛みを伴います。また、失禁や便秘、下痢といった排泄行動の異常が見られます。さらに、座り込みながら尻を引きずる「スクート」行動や、自分の尾やお尻を舐める行動も頻発します。
  2. 肛門腺破裂:上記の症状に加え、肛門周囲の皮膚に膿瘍が形成され、破裂することで鮮やかな赤色の血液や膿が見られることがあります。非常に痛みが強く、食欲不振や元気消失といった全身症状も現れます。

以上のような症状が見られた場合はすぐに獣医師に相談し、適切な治療を受けてください。定期的な肛門腺のケアがこれらの問題を防ぐ第一歩です。

3.獣医師が教える正しい肛門腺絞り方

(1)必要な準備物

肛門腺絞りを行う際には、以下の準備物が必要です。

  1. ラテックスまたはニトリルの手袋:衛生的に作業を行うため、また、強い臭いを手に移さないために必要です。
  2. 柔らかい紙またはティッシュ:絞り出した分泌物を拭き取るために使用します。
  3. ペット専用の清潔なタオル:肛門周辺を清潔に保つため、また、絞り作業中にペットが動かないように包むために使用します。
  4. 獣医師から指示された場合は、温湿布:肛門腺液を柔らかくするために使用します。

一般的な家庭で揃えられる物ばかりですが、手袋は特に強い臭いを手につけないために重要です。また、ペットが絞り作業を怖がらないよう、タオルで優しく包み込むことも大切です。

(2)絞り方の手順

犬の肛門腺絞りは正しい知識と手順が必要です。まず、必要なものはゴム手袋、ペーパータオル、温湿布、そして犬専用の消毒液です。

  1. 犬を落ち着かせ、安全な位置で行うことが大切です。犬の姿勢は立ったままでも構いませんが、横に寝かせた方が作業がしやすいでしょう。
  2. 次に、ゴム手袋をはめ、肛門の下側4時と8時の位置にあたる部分を指で感じます。これが肛門腺の位置です。
  3. 指を肛門腺に当て、内側から外側へ軽く押すようにします。力を込めすぎず、絞りすぎないように注意を払います。
  4. 絞り出した液体はペーパータオルで拭き取ります。その後、温湿布でお尻周りを拭き、犬専用の消毒液で清潔に保ちます。

いつでも安心して肛門腺絞りができるよう、正しい手順と注意点を守ることが大切です。

(3)絞り後のケア

犬の肛門腺を絞った後のケアは、その後の犬の快適さと健康を保つために重要なポイントです。

まず、絞り終わった直後は、肛門周辺を清潔に拭き取りましょう。不快な臭いを防ぐだけでなく、肛門腺から出た液体が肛門周辺の皮膚を刺激するのを防ぐことができます。この時、使うタオルは柔らかいものを使い、肌をこすらないように注意してください。

次に、お尻の周りが赤くなっていないか、また肛門腺の腫れや痛みがないかを確認します。肛門腺絞りは犬にとってストレスとなる場合があるので、落ち着いた状態でケアを行うことが大切です。

最後に、絞り後数日間は、犬の便の状態や行動に変化がないかを観察しましょう。便が硬くなったり、痛みを示す行動が見られた場合は、適切な対応を行うためにすぐに獣医師に連絡してください。

以上が、犬の肛門腺絞り後の基本的なケアになります。絞り後のケアを怠った結果、犬が不快な思いをしたり、肛門腺に問題が起きることを防ぐためにも、これらのケアは欠かさず行ってください。

4.自宅での肛門腺絞りが難しい場合

肛門腺絞りは、実際に自宅で行うことが困難な場合もあります。そのような状況では、獣医師・動物看護師・トリマーといったプロの手に任せることがおすすめです。そのメリットとは何でしょうか。

まず、獣医師・動物看護師・トリマーといったプロには豊富な経験と技術があります。特に、肛門腺絞りは一見簡単そうに見えても、実際には正確な位置を把握し、適切な力を加える必要があります。適切な力加減を誤ると、肛門腺を傷つけてしまう恐れがあります。その点、プロならではの手際の良さと確実性が期待できます。

次に、不快な匂いや汚れを自宅で対処する必要がないという点もメリットの一つです。肛門腺から出る液体は特異な臭いがあり、また清潔に絞るためには一定の準備が必要です。

さらに、獣医師・動物看護師・トリマーといったプロに任せることで、異常や疾患の早期発見も期待できます。例えば、肛門腺の硬さや色、臭いなどから、肛門腺炎や腫瘍などの疾患を見つけることが可能です。

以上のような理由から、犬の肛門腺絞りについては、安心・安全・確実に処置してもらうためにも獣医師・動物看護師・トリマーといったプロの手に任せることをおすすめします。

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